身体と心技体 プログラマーが合気道に惹かれた理由
導入
ソフトウェアエンジニアとして日々の大半をデスクワークに費やしている私は、長年のキャリアの中で、身体の凝りや運動不足を感じることが多くなりました。また、締め切りに追われる時期などは、頭の中が常に仕事のことで一杯になり、精神的なリフレッシュの必要性も感じていました。
そんな折、たまたま近所の体育館の掲示板で「合気道体験会」の案内を目にしたのが、私の新たな趣味への第一歩でした。武道には全く縁がありませんでしたが、「心身を鍛える」という言葉に惹かれ、軽い気持ちで参加してみることにしたのです。アキバ系と呼ばれるような趣味とは異なりますが、この出会いが私の生活に大きな変化をもたらすことになります。
趣味の具体的内容
私が没頭している合気道は、開祖・植芝盛平先生によって創始された日本の武道です。一般的な競技武道とは異なり、試合形式の競争はありません。技を競い合うのではなく、相手の動きや力と調和し、争わずに相手を制することを目的としています。
具体的な稽古内容は多岐にわたります。まず基本となるのが「受け身」です。投げられたり、体勢を崩されたりした際に、安全に身体を捌き、衝撃を逃がす練習を繰り返し行います。次に重要なのが「体捌き」。相手の攻撃を直接受け止めるのではなく、身体を転換させたり、移動したりすることで力をかわし、有利な体勢を作る動きです。そして、様々な「技」の練習があります。これは、相手の掴みや突き、蹴りなどに対して、体捌きと呼吸法(相手の動きと自分の呼吸を合わせる)を用いて関節技や投げ技をかけるものです。一人で行う素振りや足捌き、二人組で行う相対稽古が中心となります。
ハマった経緯・魅力
初めての体験会で感じたのは、これまでにない身体の使い方でした。プログラミングでは論理的な思考と指先を使うことがほとんどですが、合気道では全身、特に体幹を意識し、相手との物理的な関係性の中で身体を動かします。最初のうちは自分の身体が全く思い通りに動かせず、戸惑うことばかりでしたが、稽古を重ねるうちに少しずつですが、相手の力の方向を感じ取り、それに合わせて自分の身体を動かす感覚が掴めるようになってきました。
私が合気道に深く惹かれたのは、この「相手と争わない」という思想と、それに裏打ちされた技の論理性です。力任せではなく、相手のバランスを崩し、誘導することで技が決まる過程は、まるで複雑なシステムを最小の力で最適に制御するエンジニアリングに通じる面白さがあると感じました。また、稽古中に高い集中力が求められる点も魅力です。無心になって身体を動かす時間は、日頃の思考から完全に解放される貴重な時間であり、稽古が終わった後の心地よい疲労感と爽快感は格別です。
時間・費用感
現在の私は、週に2回、それぞれ1時間半程度の稽古に参加しています。これに加えて、自宅で受け身や体捌きの自主練習をすることもありますが、全体としては週に3〜4時間程度を合気道に費やしています。
費用については、道場によって異なりますが、私の通う道場では月謝が月額8,000円程度です。これに入会時の諸経費(道場によっては数万円)や、最初に購入する必要がある道着代(1万円〜1万5千円程度)がかかります。特別な道具は必要ないため、初期費用を含めても、比較的リーズナブルに始められる趣味だと感じています。年に数回、昇級・昇段審査や講習会に参加する場合は別途費用が発生しますが、必須ではありません。
プログラミング・仕事・人生への影響
合気道を始めたことで、プログラミングスキルに直接的な変化があったわけではありません。しかし、間接的には様々な良い影響を感じています。例えば、稽古で養われる集中力は、コードを書く際の集中力の持続に役立っていると感じます。また、合気道の技が「相手の力を利用する」という考え方に基づいているように、仕事においても、問題に対して力で押し切るのではなく、状況を観察し、柔軟な発想で解決策を見出す姿勢が自然と身についてきたように思います。
仕事観においても、デスクワーク中心の生活を見直し、身体の健康を保つことの重要性を再認識しました。長期的にパフォーマンスを維持するためには、心だけでなく身体への投資も不可欠だと考えるようになりました。合気道の稽古で得られる身体的な感覚や、他者との非言語的なコミュニケーションの経験は、論理的思考が中心となる仕事の世界に、異なる視点やバランスをもたらしてくれていると感じています。
趣味を通じて得られたもの
合気道を通じて得られたものは、体力や柔軟性といった身体的な側面に留まりません。まず、精神的な落ち着きや集中力が高まったことを実感しています。稽古中は目の前の動きに意識を集中するため、仕事の悩みや日頃のストレスから一時的に解放され、良い気分転換になっています。
また、道場には様々な年代や職業の人が集まっており、普段の生活や仕事では出会うことのない方々と交流する機会が得られました。稽古を通じてお互いを尊重し、協力し合う関係性は、コミュニティに属することの楽しさや安心感を与えてくれます。礼儀作法や相手への配慮といった、人間関係において大切な姿勢を改めて学ぶことも多かったです。何よりも、頭だけで考えるのではなく、身体を使って何かを学び、成長していく過程で得られる充足感は、デスクワークでは得られない特別なものです。
読者へのメッセージ/アドバイス
もしあなたが、私と同じように普段はデスクワーク中心で、運動不足を感じていたり、心身のリフレッシュ方法を探していたりするのであれば、合気道は選択肢の一つとして非常におすすめできます。年齢や運動経験の有無に関わらず、誰でも自分のペースで始めることができます。
始めるにあたってのアドバイスとしては、まずはお近くの道場や体育館で開催されている体験会や見学に参加してみるのが良いでしょう。道場の雰囲気や指導者の方針は様々なので、いくつか見て回るのも良いかもしれません。最初のうちは技がうまくできなくても全く気にする必要はありません。受け身の練習から始まり、少しずつ身体の使い方を覚えていけば大丈夫です。焦らず、楽しみながら続けることが何よりも大切だと思います。
まとめ
プログラマーとして働く傍らで始めた合気道は、私の心と身体に良いバランスをもたらしてくれています。論理的な思考が主体の仕事とは全く異なる身体的な活動を通じて、新たな学びや発見があり、多くの人との繋がりを得ることができました。
仕事だけでなく、人生を豊かにする多様な活動に目を向けることは、視野を広げ、人間的な成長を促します。あなたもぜひ、興味を持ったことに一歩踏み出し、デスクの外に広がる新しい世界を探求してみてはいかがでしょうか。