アキバ系じゃない趣味

多様な味わいの探求 プログラマーがクラフトビールの世界に辿り着いた経緯

Tags: クラフトビール, 趣味, ライフスタイル, 探求, ビール

クラフトビールとの出会い:ディスプレイの向こう側からの一歩

日々、コードと向き合い、論理的な世界で思考を巡らせるのが私の仕事です。ディスプレイに映し出される無数の文字や記号を追う時間は、私にとって集中と発見の連続であり、大きなやりがいを感じています。しかし、時にはその世界から離れて、五感をフルに使って何かを体験したいという気持ちが芽生えることがあります。

そんな私が、ある日偶然に足を踏み入れたのが、クラフトビールの世界でした。最初は、仕事終わりの一杯として、いつもと同じ大手メーカーのビールを選んでいました。それが当たり前だったのです。しかし、ある時、友人に誘われて立ち寄った小さなビアバーで、それまで知らなかった「クラフトビール」に出会いました。そこで提供された一杯は、私が抱いていたビールのイメージを根底から覆すものでした。豊かな香りと複雑な味わいは、まるで未知のデータ構造を解析するような、新鮮な驚きに満ちていたのです。

クラフトビール探求の具体的な歩み

クラフトビールとは、小規模な醸造所で作られる、多様なスタイルと個性に富んだビールの総称です。大手メーカーのビールが一定の品質と味を保つことに重点を置いているのに対し、クラフトビールは作り手の創造性や地域の特色が強く反映されます。

私の探求は、まず身近なところから始まりました。コンビニエンスストアやスーパーマーケットでも、最近は様々な種類のクラフトビールを見かけるようになりました。まずは手に取りやすいものから試飲し、ラベルに書かれた情報(スタイル、ABV(アルコール度数)、IBU(苦味の指標)など)を読み解くことから始めました。IPA(インディア・ペールエール)のホップの強い苦味と香り、Stoutのローストされた麦芽の風味とコク、Wheat Aleのフルーティーさ、Saisonのスパイシーさなど、それぞれのスタイルが持つ個性的な特徴に触れるたびに、新しい発見がありました。

さらに興味が深まると、専門店やオンラインショップを利用するようになり、国内外のより多様なブルワリーのビールを入手するようになりました。ブルワリーごとの哲学やストーリーを知るのも楽しみの一つです。また、ブルワリーが主催するイベントや、ビールに関するテイスティングセミナーに参加することも、知識と経験を深める上で非常に役立ちました。ビールの専門書を読んだり、Untappdのようなビールレビューアプリを使って自分の飲んだビールを記録・評価したり、他の人のレビューを参考に次に飲むビールを選んだりすることも日常の一部となりました。

なぜクラフトビールに惹かれるのか:多様性と探求心

私がクラフトビールにこれほどまでにハマったのは、その「多様性」と「探求の余地の深さ」にあります。プログラミングの世界と同様に、ビールにも無数のスタイルがあり、それぞれのスタイルの中にさらに多様な表現があります。同じIPAというスタイルでも、使うホップの種類や醸造プロセスによって、香りや苦味、味わいは全く異なります。まるで同じプログラミング言語でも、書き手によってコードのスタイルや表現が大きく変わるのと同じような感覚です。

また、新しいビールに出会うたびに、その味や香りを分析し、自分の好みを探求するプロセスは、非常に知的好奇心を刺激します。なぜこの味になるのか、どのような原材料が使われているのか、どの温度で飲むのがベストなのか。論理的に考え、仮説を立て、実際に試してみるというプロセスは、プログラマーとしての思考回路と通じる部分があるかもしれません。しかし、プログラミングが主に論理とデジタルな世界で完結するのに対し、クラフトビール探求は五感を使い、物理的な体験を伴います。香りを嗅ぎ、色を眺め、口に含んで味わい、喉越しを感じる。この感覚的な体験が、脳の違う部分を刺激し、日常的な思考から解放してくれるのです。

時間と費用感:無理なく楽しめる範囲で

趣味にどれくらいの時間と費用をかけるかは、人それぞれだと思います。私の場合は、週に数本、自宅でゆっくりと味わうことが多いです。1本あたり500円〜1000円程度のものが中心ですが、特別なビールや限定品は2000円を超えることもあります。月に換算すると、5000円から1万円程度でしょうか。

週末には、自宅からアクセスしやすいブルワリーのタップルームを訪れたり、クラフトビールを豊富に扱うお店で数種類購入したりすることもあります。イベントに参加する場合は、参加費や交通費が別途かかります。始めたばかりの頃は、手頃な価格帯の多様なスタイルを試すことに重点を置き、徐々に自分の好みが分かってきたら、少し高価なビールにも手を出すようにしました。無理なく、自分のペースで楽しむことが長続きの秘訣だと感じています。

プログラミング、仕事、そして人生への影響

クラフトビール探求は、私のプログラミングスキルに直接的な影響を与えたわけではありません。しかし、間接的にはいくつかの良い影響があったと感じています。

まず、多様性の受容です。クラフトビールは本当に様々なスタイルや味があり、「これが正解」というものがありません。それぞれのビールに良さがあり、その個性を楽しむことが重要です。これは、プログラミングにおいても、様々な言語、フレームワーク、設計思想がある中で、一つの考え方に固執せず、それぞれの特性を理解し、状況に応じて最適なものを選ぶという姿勢に通じるかもしれません。

次に、リフレッシュとストレス解消です。集中力が必要な仕事の合間や終わりに、好きなビールをゆっくりと味わう時間は、脳を切り替え、心身をリラックスさせてくれます。これにより、再び仕事に戻った時の集中力や創造性が高まるのを感じています。

さらに、この趣味を通じて、プログラマー以外の様々なバックグラウンドを持つ人々(ブルワリーのスタッフ、ビアバーの常連客、ビールのイベントで出会った人々)と交流する機会が増えました。異なる視点や価値観に触れることは、視野を広げ、人間的な成長にも繋がっていると感じています。人生全体に彩りが加わり、日々の生活がより豊かになったことを実感しています。

これからクラフトビールを始めてみたい読者へ

もしあなたがクラフトビールの世界に少しでも興味を持たれたなら、ぜひ気軽に一歩踏み出してみてください。始めるにあたって、特別な知識や高価な道具は一切必要ありません。

まずは、お近くのコンビニやスーパー、酒販店で「クラフトビール」と書かれたものや、見慣れないデザインの缶や瓶ビールを探してみるのがおすすめです。様々なスタイルのビールが置いてあるはずです。ラベルをよく見て、どのようなビールか想像しながら選んでみましょう。

次に、いくつか試してみて、自分が「美味しい」「面白い」と感じたビールのスタイルやブルワリーの名前を覚えておくと良いでしょう。もし可能であれば、クラフトビール専門のビアバーに行ってみるのも素晴らしい経験になります。タップから注がれる新鮮なビールは格別ですし、お店の方に好みを伝えれば、あなたにぴったりのビールを選んでくれるでしょう。

大切なのは、「こうでなくてはならない」という固定観念を持たず、自由に、自分の「美味しい」を探求することです。最初は一口飲んで「これは苦手だな」と思うものもあるかもしれません。しかし、多様なビールを試していくうちに、きっとあなたの舌に合う、お気に入りの一本やスタイルが見つかるはずです。

まとめ:一杯のグラスに広がる多様な世界

プログラミングという論理的で精緻な世界に生きる私にとって、クラフトビール探求は、五感を通じて世界の多様性や豊かさを感じさせてくれる、かけがえのない趣味となりました。一杯のグラスの中に広がる香りと味わいの宇宙は、探求すればするほど奥深く、常に新しい発見があります。

もしあなたが、日々の仕事から離れて心身をリフレッシュしたい、新しい世界に触れて視野を広げたい、そして何より「美味しい」というシンプルな喜びに浸りたいと感じているなら、クラフトビールの世界はあなたを温かく迎え入れてくれるでしょう。ほんの一歩踏み出すだけで、きっと新しい発見と楽しさが待っています。